病棟保育士から見る、クリニクラウンの役割とは?
取材・文 塚本真美
こどもたちが入院する病棟に、「こども時間」を届けるクリニクラウンたち。彼らの存在を知ってはいても、病棟での活動を実際に目にする機会はなかなかありません。
実際に、日本クリニクラウン協会に、ボランティアとして関わってきた私でさえ、ふだんの彼らは知っていても、病棟内でクリニクラウンとして活動しているところは、見たことがありません。
そこで、今回は京都府立医科大学付属病院の病棟保育士さん2名にインタビューを行い、病院での彼らのようすについてお話を伺ってきました!
※今回のインタビューは名前の公表を避けたいとのご意向があり、個人名を避け病棟保育士さんとしてご紹介します
※病棟保育士とは
病院に入院する子供は、入院期間も年齢も性別も何もかも様々。そんな小児病棟で今活躍を見せているのが病棟保育士さんたちです。院内学級に行けない年齢のこどもたちを中心に遊びを通して、たとえ入院中であってもこどもたちが自分らしく過ごせるような環境づくりをされています。
空気が変わる瞬間を感じる
「クリニクラウンの訪問があると、病棟の雰囲気が一気に変わるんです」と病棟保育士さん。
朝からワクワクするのは、こどもたちや家族だけではありません。病棟で働く人たちも楽しみにしています。病棟訪問を前に、クリニクラウンが病院に入ってくる姿を見つけ、「さっき、クリニクラウンを1階で見たよ」という情報が届くこともあるそう。
クリニクラウンがやってくると、「病棟がぱぁーっと明るくなる気がする」と話す病棟保育士さん。クリニクラウンは誰にでも同じように声をかけて遊びに誘うことで、ドクターも歌ったり踊ったり。いつも見慣れないその姿を見てこどもたちに笑顔が広がります。
「クリニクラウンがこどもや家族、病棟で働くみんなに遊びを投げかけてくれることで、つながるきっかけを作ってくれる。こどもたちの驚きや真剣なまなざしを見て家族がほっとしたり、『こんな音が苦手なんや』『こんな遊びが好きなんやね』など、新しい発見につながることもあります」。
また、家族が笑っている姿を見て、こども自身がうれしそうな様子もよく見かけるそうです。
そんな様子を「緊張感の多い入院生活が少しほぐれる瞬間が生まれる」と教えてくれました。
言葉ではないコミュニケーションの豊かさ
「クリニクラウンの活動はメディアを通して知っていました。新生児・乳児が多い病棟なので、こどもたちの反応はどうかな?と期待感を持っていたんです」と言う病棟保育士さん。「クリニクラウンの関わりが小さいこどもたちにどのような効果があるか楽しみでもあり、実際にクリニクラウンの訪問を経験して、たくさんの発見がありました。」
こどもたちは、クリニクラウンに対してさまざまな反応を示します。
警戒してお母さんにギュッとしがみつくこども、じっとクリニクラウンを見つめたり、人見知りをしたりするこども。あるいは、嬉しくてテンションが上がったり、恥ずかしさで言葉が出なくなったりするこどももいます。
クリニクラウンたちは一人ひとりの様子を瞬時に感じ取り、柔軟に関わり方を変えていきます。こどもの気持ちをくみ取ってこどもたちとの距離をはかり、言葉ではないコミュニケーションを通して少しずつこどもたちの心をほぐしていくのです。
「例えば、クリニクラウンを見て泣き出すこどもがいると、一緒にいるお母さんは『泣かないで』と遊びに気持ちを向けようとされることがあります。そんなとき、クリニクラウンは『泣いてもいいよ』と声をかけて、まずはお母さんと楽しく過ごします。そして、お母さんと遊ぶことを通して、徐々にこどもたちを引き込んでいくのです」。
クリニクラウンからお母さん、お母さんからこども、こどもからクリニクラウンへとつながり、気持ちが少しずつほぐれていきます。一方的でなく、相互関係が大切にされていると病棟保育士さんは言います。こどもの動作や表情、体のリズムを感じ取り、遊びからコミュニケーションが広がり、繋がっていく過程にはつい見入ってしまうほどだそうです。
こどもたちにとってのクリニクラウン
治療を中心とする入院生活では、こどもたちは受け身になりがち。クリニクラウンは、そんな入院生活のなかで、好奇心をくすぐられるような経験をもたらしてくれる存在です。
「こどもたちにとってクリニクラウンは友達だったり、お客様だったり、話し相手だったり、人でない何かだったり……。それをクリニクラウンたちはすぐにキャッチして、そのこどもたちが思う姿になって対面してくれます」。
「これってどうなってるんだろう?」「これからどうするんだろう?」
面白いと感じる気持ちは好奇心をかきたてます。こどもたちは、人との関わりを楽しむなかで能動性を取り戻していくのです。
クリニクラウンたちは “今”のこどもたちの状況に合わせて、たくみに関わり方を変えていきます。その瞬間に、こどもが望んでいる距離やどのように遊びたいのかを感じ、ありののままを受け入れます。
「たとえ、お母さんが遠巻きに見ているこどもたちの背中を押して、クリニクラウンに近づけようとしても『いいの、いいの。今はこの距離がいいんだよね』と言ってくれるんです。そのままの自分を出せる時間・空間があることは、こども自身の力を引き出すきっかけにもなっていると思います」。
病棟保育士としての仕事を見つめなおす
「今度、クリニクラウンに会ったらこんなことがしたい」「もっと遊びたい」。
クリニクラウンとの遊びを通して、「また次に会う時まで」、と思う気持ちが生まれると、こども自身が持っている“困難を乗り越える力”が生まれると病棟保育士さんは考えています。。その力は、入院生活や治療に向かう気持ちとして現れてきます。
「『今度はクリニクラウンに見せたい』と手品を練習する子もいます。次の訪問までに退院する子は『学校の友達に見せたい』という気持ちになったり。クリニクラウンとの関わりから生まれるものは、その時だけでは終わらないなと日々実感していますね」。
クリニクラウンとの遊びを通じて、こどもたちは「自分自身を大切にしてもらっている」「自分自身を認めてもらっている」ことを、感じ取っているのではないかと病棟保育士さんは話します。クリニクラウンとの関わりは、病棟保育士としての仕事を見つめ直すことにもつながっています。
「病気をしていてもしていなくても、入院していてもしていなくても、どこの国で生まれても、こどもはこども。遊びが必要です。いろんな制限のある入院生活のなかで、少しでもこどもが日常を取り戻すことのできる時間や物、人との関わりをつなげるお手伝いをするのが病棟保育士の役割のひとつだと思います」。
そんな病棟保育士の仕事の中でクリニクラウンの遊びやかかわり方はとても勉強になる。そう話し、そして「まだまだです。」と笑顔でインタビューに答えてくれた病棟保育士さん。そう話す彼女たちのまなざしは熱く優しいものでした。
普段のこどもたちの様子を1番よく知っている病棟保育士さんたち。彼女たちが話すクリニクラウンとこどもたちの遊びの中で「こどもの能力を取り戻す」「ありのままを受け入れる」「困難を乗り越える力になる」瞬間があることを感じました。
今回のインタビューを通して、病棟保育士さんは病院におけるクリニクラウンの伴走者なのだなと思いました。そして、クリニクラウンがつくる「こども時間」は、クリニクラウンそばで見つめ、支えてくれる人といっしょにつくられているのではないか、とも思います。
たとえ病棟には入らなくても、クリニクラウンを支える方法はたくさんあります。みんなをつなぎ、遊びという共通言語を通して、こどもの心をほぐす。あなたも“こども時間”を届ける仲間になりませんか?
<ライタープロフィール>
塚本真美
1977年大阪府堺市生まれ、堺市育ち。2000年春、社会人になる時に内側からNPOを支える存在ではなく、外側から支えられる存在になろうと考える。様々な職を転々としながら、NPOの色んな活動に参加し暗中模索の20年を過ごす。そんな中でこの「つながる編集教室」に出会う。書くこと、伝えることを学び社会に貢献する一助になればと応募し現在に至る。まだまだ旅の途中。